2014年12月5日金曜日

花鳥風月

敬愛というべきか、私淑というべきか、そういっても実際やってみたらおっしゃるとおりじゃないですやんと腹も立つ養老孟司師は、管理社会、都市化社会に起こったやるせない事件の当事者が残した手記などを読んで、ここには花鳥風月がないと嘆かれる。

実際生きにくい。

花鳥風月を楽しむことのできるのは田舎だが、そこでそのよさを堪能できるのは過疎化で疲弊したところで自由にぜいたくな生活ができる都会人である。
レジャーでちょいと寄る都市生活者、移住してもそれでも生きていける文化人や芸術家。

花鳥風月を愛でているばかりでは食っていけない鄙の若者は、田舎出身のボス政治家が作った幹線道路や新幹線や飛行機で都市に出て、都市生活者に転じた。
残った親兄弟は、高齢化していまや消えなんとしている。
よって、花鳥風月も手入れを欠くとダメなところはシンクロして疲弊する。
ドングリの食えない熊が、うちの近所までえさ探しに降りてくる。
別に相撲取ろうよって遊びに来るわけでない。

我が輩も終の棲家をいろいろと考えたが、やはり都会田舎の中途半端なところにしか住めない。
しばらく前に養老爺の説に乗って、田舎に参勤交代を試みたが、難しいと思い知った。
スタートするしばらくまえに同業の先達がリタイアするとてうかがった。
年賀状に書かれている住所に行けば、山の中。
都会で家を建てれば一桁二桁違ってきそうなお家でカントリーライフを堪能して暮らしておられた。
ところが大病で、都市に通わなければと二、三時間もかかるところをケモテラピーに通った。
往復で半日かかるところで帰りはおつらかったろう。
近くの二次病院は信用してなかったんだろう。
しばらく前なくなった。

この弁護士さんがまだおなくなりになる前に、参勤交代の準備にと我が輩は近所の急性期病院の勉強会に参加。
肉にがっついて死にかけた。
医者がたくさんいる場でハイムリッヒや背部の叩打で狭小だが気道が開通していたので、その場で頓死せず救急車で三次救急救命のベッドに運んでもらえ九死に一生を得た。
しかし、自分の体感では上からマギール鉗子で引っ張り出してもらえそうな気がしていたが、全麻から覚醒してムンテラを受けることのできるほどリカバーした翌日、気切の体感と説明でそんな簡単でなかったことを知った。
本当に死にかけたのだ。

それでも無事軽い誤嚥性肺炎からもリカバーし、参勤交代の契約先のお手伝いに行った。
単調な北海道ロード、気を抜くと居眠り運転に陥る。
三ヶ月目には、冬のアイスバーンも怖くなりやめさせてもらった。
コラボ、リソース、役割分担の見えない怖さもあった。
辞去した後に、若い男性コメディカルが辞職しおいらの住む街に就職したと聞いた。
副院長も辞めてよそに移った。
別に大事件がなくとも田舎は日々メルトしている。
くびちょうさんが、人相のあまりよくないがきもかわいいとも言える大臣に上から目線で腹が立つとブログに書く気持ちはわかる。
福島や東北の人々がほぞを噛むような気持ちはよくわかる。

おのれの還暦ちょいまえのこのエピソードで、いまの還暦後一年が過ぎようとしているいま、ちょいとミニ総括してみると。
人間は日々死ぬ。
ちょびっとちょびっとずつ。
山本夏彦さんの名コラム「死ぬの大好き」に書かれているとおり、自分も大好きではないが、人生のプラマイにちまちましなくてよくなるという意味で死ぬのオーライと想っているが、ほんとうに死んでしまうのはなれの果てで、本当はちょびちょび死ぬのさ。
先日もオペからほぼ10年前の部位近くがもぞもぞするので、既述の弁護士先生のように化学療法や免疫療法は受ける気はないが、姑息手術を受けないとまずいって状態に陥ったらハムレットだなとしばらく悩んだ。
誤嚥の気切後も腹ばいでネット三昧したら、さ声で急性喉頭蓋炎的気道閉塞になったらやばいなという体験もした。
このように人は古傷で抵抗減弱部を広げ、回復し、いずれは本格的におだぶつする。
ケアとキュアのパラダイムシフトなんて二元論ではいかぬ。
そこに後妻業の女、練炭の女たちも出てくる。
三浦和義やトリカブトの神谷某とか男もいたり、真須美夫妻の事件もある。
異状死体届出義務のことは政治性が強いので、中途半端にはここで言及しないが、おいらが生きていられればはっきりしっかりものは言い残しておかねばと想っている。
いずれにせよ心身は使えば減る。
昔のどすべたねえちゃんが言ったように減るもんじゃなしじゃなく、確実に減る。
そういうことを情報化社会で見識とする現代的不良少女はさっさと減る分を換金しようと動く。

てなことでギスギスを癒さんがため養老御大が少しは愛でよという花鳥風月から遠く、切ない現代社会描写と自己事故体験の開陳に至ったが、わがライフスタイルならば厳寒期でも花鳥風月、つまりは自然を味わいつつ汗を流さねばならぬ。
正月近くに亡くなった近所の90近くのばさまは、圧迫骨折が痛いとごちながら、有償ボランティアっぽい企業の雪かきサービスを利用しつつだが、独居で自宅の雪の始末に精励されていた。
亡くなった当日もホーマックの雪かき担当者と一緒に玄関におられたのに黙礼した覚えがある。

ああいう大往生、自分もあんな感じで死ぬの大好き。